第2回 |コラム長川 「私たちはいつだって先の見えない時代を生きてきた」

コクリワーク艦長の長川です。
先月に続き、日頃の自分の活動や体験を通じて考えたり感じたことをコラムにしてお届けしてまいります。

今回も私が共同創業者(co-founder)として代表理事を務める、IAS(一般社団法人インターナショナルアーティスト支援協会)を立ち上げた10年ほど前のことを振り返ってお話ししたいと思います。

当時私は大阪市の創業支援施設でインキュベーションマネージャーという起業家の資金調達や販路開拓の相談などをする仕事をしていました。

「インキュベーション」は最近でこそ普通に使われるようになりましたが、当時は「難解なビジネス用語」の筆頭としてメディアに紹介されるほど一般には馴染みのない言葉でした。

インキュベーションの元々の意味は「卵を孵化させる」ことで、空き倉庫や工場などにアーティストや起業家の卵を集めてその場所を「孵化器」に例えたいわゆる「アメリカンジョーク」です。

それを日本では正式な名称として官民挙げて普及させたわけで、まぁこの辺りは日本人らしい生真面目な姿勢が感じられて個人的には好きな流れなのですが、面白い点でもあります。

ところで大阪市はかなり早くからインキュベーションに力を入れていて今は閉館しましたがUSJの近くにある島屋ビジネス・インキュベータをはじめ、大阪市内にインキュベーション施設が次々と設置されて行きました。

大阪は戦前まで「大大阪」「東洋のマンチェスター」と呼ばれ日本の代表的な産業を次々と生み出すまさに日本における「起業家の孵化器」でした。

今でも大阪市中央区にある「大阪起業家ミュージアム」に行けば、いかに大阪が起業家を誕生させ日本の発展に寄与してきたかを目の当たりにすることができます。

【大阪起業家ミュージアム】
まだ行ったことない人は必見です。
https://www.kigyoka.jp/index.html

20年前のいわゆる「ITバブル」が終焉し、雇用を生み出すための工場誘致のほか、テクノロジーを新たな産業につなげようとこれまで様々な取り組みがされていました。

ロボットやIoTなど、モノづくりが得意な大阪の特性を活かして大学との連携プロジェクトやクリエイティブ産業とのコラボによりイノベーションを起こそうとしていた時期でもあります。

そのころ私自身は毎晩のように若手クリエイターや起業家とビジネスについて語り合おうと(?)終電まで飲んでいたり、人生の悩みについて語り合おうと(?)朝まで飲んでいて目覚めたら扇町公園の岩の上だったりしていました。

バブルが崩壊してから「失われた20年」と言われていた時期ですが、そんな若い起業家やクリエイターとの講師を超えた交流を通じて、「いつかもう一度好景気が来る」という根拠の無い期待感もありました。

それが打ち砕かれたのがアメリカのサブプライムローン問題から発した2008年のリーマンショック、そして2011年の東日本大震災でした。
あの日の光景は今も目に焼き付いて離れません。

何から手を付けたらいいのか頭がパニックになるような衝撃でしたが、10年たった今も、心の中では手付かずの瓦礫が漂っている気がします。

そんな中、2020年の東京オリンピックとその5年後の大阪関西万博の決定はもう一度、期待と希望を持ってもいいかな?と思える心境をもたらしました。

ところが今度は新型コロナウィルスによる世界経済へのダメージ。
こうして見ると、いかに不測の事態と言われる大きな事件や災害が約10年置きぐらいに発生していて、安心安全な日常というものがどれくらい当たり前ではなくありがたいものか、身につまされます。

当然のことですが、人生は思い通りにはなりません。
だからこそ、生きることの意味を問い続けることができる。

IASを立ち上げて間もなくして、東日本の震災が起きました。
その時、頑張っている人を応援する、そしてみんなで立ち上がり未来を創る、それが事業の目的となっていきました。

当たり前ですが、未来は予測不可能。想定外なことが次々起こります。
でも、過去を学ぶことである程度のことは対処できることも事実です。

今、これから先がまったく見えない、そういう人もいると思います。
ただ、真っ暗闇だと思うと見つけられませんが、心の中の瞳を凝らせば、必ずひとすじの光を感じることができるはずです。

人類はそうして困難な状況を乗り越え、新しい時代を築いてきました。

一人ひとりが目の前にいる人のためにできることを一所懸命にやるだけで予想もしていなかった扉が開く。
日の当たらないところに光を当てることで、思いがけない花が咲き実を結ぶ。

思い通りにいかないことを、周りや環境に関わらず受け入れて前に進む、これが自分が生まれてくることを選んだ時代なんだと。

そして今日もまた、元気に人と出会うことができる喜びを感じています。
ここで立ち止まるわけにはいかないのです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

【プロフィール】

長川 勝勇(ナガカワ マサオ)

株式会社サンワールドコミュニケーションズ 代表取締役
一般社団法人インターナショナルアーティスト支援協会 代表理事(co-founder)
コクリワーク艦長(コクリワーク統括運営責任者)